Dr.メッセージ

慢性甲状腺炎(橋本病)とは
2008年3月
福島県農協会館診療所
所長 伊勢 重男

福島県農協会館診療所 所長 伊勢 重男
Q:どんな病気ですか
A:甲状腺の細胞が5年、10年という長い時間をかけてゆっくりと破壊され、その 結果甲状腺ホルモンが不足して起こる病気です。大正元年(1912年)に九州大学医学部の橋本策(はかる)先生がドイツの医学誌に世界で初めて報告したことにより、国際的に「橋本病」とも呼ばれています。

Q:原因はなんでしょうか
A:私達は、細菌や花粉など対外から侵入してきた外敵から身を守る「抗体」という抵抗力(免疫)を持っていますが、たまたまその抗体が誤って自分自身の甲 状腺を攻撃して炎症を起こしてしまう、いわゆる「自己免疫疾患」の一つと考えられています。この抗体は「抗甲状腺抗体」と呼ばれています。なぜ自分自身を攻撃してしまうのか詳しい理由はまだ判っていません。

Q:どんな人が罹り易いのですか
A:中年以降の女性に多いです。圧倒的に女性に多く、男女比でいうと、女性患者15~30対男性患者1ぐらいですかね。最近は検査法が進んで、中年以降だけでなく若い女性にも結構いることが分って来ました。しかも健康診断を受ける女性全員に橋本病の抗体検査を受けさせるとすれば、10人に1人は抗体陽性 になると考えられています。ですから、乳癌健診の際に甲状腺検査も行えば、「要精査」となる人は乳腺より甲状腺の方が多いくらいになります。

Q:初期の症状はどのようなものがありますか
A:幸いなことに、たとえ橋本病の診断がついたとしても症状の現れない人が大部分なのです。しかし、半数以上の人に甲状腺の腫れを認めます。この方たちが健診で見つかるわけです。普通は痛みもなく、まったく気がつかない人のほうが多いといえるでしょう。
 甲状腺が腫れていても、炎症が軽くて細胞の破壊が少ないときは、甲状腺ホルモンは不足しませんから症状はありませんが、破壊が進むと不足の症状が現れてきます。このような状態を「甲状腺機能低下症」と呼んでいます。

Q:進むとどんな症状になりますか。
A:まず、「体がだるい」「疲れやすい」「積極的にやる気力がなくなった」「寒がり屋になった」「物忘れがひどくなった」などを訴えます。さらに進みと「顔がむくんだり、まぶたが腫れぼったくなる」「皮膚がカサカサになる」「抜け毛がひどい」などの症状が現れます。もっと進むと前進がむくんできたり、心臓や腎臓の機能が障害されます。

Q:なんだか初めはどこにでもあるようなありふれた症状のように思えますが・・
A:そのとおりです。ですから更年期障害とか心臓病、腎臓病とか、別の病気と紛らわしく、その治療を受けても一向によくならない場合も多いようです。
 また、特殊な病形として、甲状腺細胞が急激に破壊されホルモンが一度にどっと放出される場合があります。この時は一時的に逆に暑がり、動悸、発汗、異常なせわしなさなど「甲状腺機能ホルモン過剰(機能亢進症)」の症状がしばらく続きます。そのため、有名なバセドウ病と誤診されることもあります。

Q:どのようにして診断するのですか
A:腫れて特有な感触を有する甲状腺が認められたり、前に示した症状があればこの病気を疑います。そこで血液検査をして甲状腺に対する抗体(抗サイログブリン抗体、抗TPO抗体)が高値だったり、甲状腺ホルモンが不足しているのが判れば確実な診断が下されます。

Q:診断がつけばすぐ治療した方がいいのでしょうか
A:そうとは限りません。抗体値の高い人は先に云いましたように案外多いのですが、治療を要するほど甲状腺ホルモンが低下している方はごく一部ですからご安心下さい。甲状腺が腫れていても症状が現れなければ、年1~2回の血液検査だけで経過をみてよいでしょう。

Q:それではどうなったら治療を要するのですか
A:血液検査をして甲状腺ホルモンが明らかに不足している状態になれば、甲状腺ホルモン剤を飲む必要があります。これほど効き目のはっきり分る薬も珍しいでしょう。あるご老人で認知症の原因が実はこの病気だったので、治療で劇的に回復した例があるほどです。

Q:薬を飲む期間はどのくらいですか
A:甲状腺が破壊された結果、甲状腺ホルモンが不足してくるわけですから、こうなればまず回復は望めません。ずっと薬を飲み続ける必要があります。症状が軽くなってくると、治ったと自己判断して勝手に飲むのをやめる人がいますが、これは絶対にいけません。しかし、中には止められるケースもありますから、よく主治医と相談して下さい。

Q:他に日常生活で注意することはありますか
A:海藻類、このうち特に昆布やワカメを食べ過ぎないようにすること以外は、何の制約もありません。ただし、薬を飲み忘れないようにして下さい。糖尿病や心臓病における日常生活上の注意に比べたらずっと楽でしょうね。

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