以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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Dr.メッセージ

脂質異常症の話
2018年3月
福島県農協会館診療所
所長 重富 秀一
 健康診断の血清脂質の欄には、総コレステロール、LDL-コレステロール、HDL-コレステロールおよび中性脂肪という項目があります。これらの検査値が基準を超える(HDL-Cの場合は基準値以下になる)と脂質異常と診断されます(表1)。一口に脂質と言いますが、ヒトの血液中にはコレステロール、中性脂肪、リン脂質および遊離脂肪酸という4種類の脂質が存在しています。いずれもヒトが生きていくためには必要不可欠な栄養素ですが、臨床的に問題になるのはコレステロールと中性脂肪です。脂質は悪者と考えがちですが、コレステロールは細胞の重要な構成成分であると同時に、ホルモンや胆汁酸の材料でもあります。また、中性脂肪は重要なエネルギー源であり、食事により得られた余剰エネルギーは非常時に備えて中性脂肪として脂肪細胞に貯蔵されているのです。コレステロールや中性脂肪は、そのままの形では血液に溶けません。では、どのような形で血液に溶けているのでしょう? 実は、コレステロールや中性脂肪は、比較的水に溶けやすいリン脂質や蛋白質(アポ蛋白)囲まれた粒子状の形態で血液中に溶け込んでいます。粒子上の構造をした複合体をリポ蛋白と言います(図)。コレステロールや中性脂肪などの脂質は、リポ蛋白という粒子の構成成分として血液中に存在し、必要な場所に運ばれ利用されます。中性脂肪は比重の軽いリポ蛋白(カイロマイクロンやVLDL)に多く含まれ、コレステロールはLDL(低比重リポ蛋白)やHDL(高比重リポ蛋白)いう粒子に多く含まれています(表2)。詳しいことは省略しますが、ごく簡単に言えば、LDLは目的とする末梢組織へコレステロールを運び、HDLは末梢組織で余ったコレステロールを肝臓へ戻すように働いています。HDLよりもLDLが多い状態が何年も続くと動脈硬化性疾患を発症する確率が大きくなります。中性脂肪と動脈硬化の関係は必ずしも明確には分かっていませんが、中性脂肪が150mg/dl を超えると、コレステロールを運ぶLDL粒子が小型化しやすくなると言われています。小型化したLDLは酸化LDLとなり血管壁に入り込んで動脈硬化を進展させます。また、中性脂肪は食事やアルコールの影響で変動しやすいので、食生活習慣を是正するとかなり改善することもわかっています。脂質異常症の診断基準は薬物療法の開始を意味するものではありません。健康診断などで脂質異常症の基準に当てはまった場合は、まず生活習慣の改善に努めてください(表3)。脂質異常症といってもその原因はさまざまなので、生活習慣を改善して2〜3ヶ月経っても検査値が良くならないときは専門医に相談してください。動脈硬化性疾患の予防にはコレステロール値を正常に保つことが重要です。コレステロールが正常であっても中性脂肪が500mg/dl以上の場合には急性膵炎に罹るリスクが高いので中性脂肪を低下させるための薬物療法を行なう必要があります。

表1 脂質異常症の診断基準


図 リポ蛋白の構造


表2 リポ蛋白の種類と働き


表3 脂質異常症における生活習慣の改善