以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

ツツガムシ病について
2011年5月20日放送
白河厚生総合病院
皮膚科部長 竹之下秀雄

 皆さん、おはようございます。白河厚生総合病院 皮膚科の竹之下と申します。
今日は、ツツガムシ病についてお話させていただきます。

 

 ツツガムシ病は、文字どおりツツガムシに刺されて発症する疾患です。(1)発熱、(2)全身の紅斑、(3)刺し口の3つが代表的な症状で、頭痛、倦怠感などを伴います。診断が遅れますと、重症化して死亡することもある危険な感染症のひとつです。医師はツツガムシ病と診断しますと、最寄の保健所に届けることになっています。都道府県別の届出患者数をみますと、福島県は毎年、全国でも1位か2位となっており、鹿児島県と並んで全国でも有数の好発県であります。また、2009年では福島県で過去最高の96人の患者さんが届けられ、全国1位でした。福島県では、会津地方と浜通り地方に少なく、中通リ地方に多く発症しています。私が勤務している白河厚生総合病院のある県南地方は特に多く発症いたします。

 

 ツツガムシ病を発症させるツツガムシは、アカツツガムシ、タテツツガムシ、フトゲツツガムシの3種類です。アカツツガムシに刺されますと夏に発症し、タテツツガムシに刺されると秋に発症し、フトゲツツガムシに刺されると秋か春に発症いたします。
 現在では、アカツツガムシに刺されて発症することはほとんどなく、タテツツガムシかフトゲツツガムシに刺されて発症するのがほとんどです。

        

 これら3種類のツツガムシの大きさは、いずれも0.2~0.3mm程度ですので刺されても痛みや痒みを感じませんので、刺された自覚はないようです。しかし、ツツガムシに刺されてから1週間から10日後に、(1)発熱、(2)全身の紅斑、(3)刺し口の症状が出現しますが、始めは患者さんも医師も感冒などを疑い、カゼ薬が処方されることが多く、初診時にツツガムシ病が疑われることは少なく、診断が遅れることが多いようです。
 春か秋に熱が出て、カゼの治療で治らず、全身に紅斑が出現したらツツガムシ病を疑い、直径5mm程度のカサプタを有する刺し口をみつければ、福島県にお住まいであれば、ツツガムシ病が強く疑われます。

 さて、ツツガムシ病の本当の犯人は、ツツガムシではなく、ツツガムシに寄生しているオリエンティア・ツツガムシという細菌の一種のリケッチアであることはご存知でしょうか。
 日本では、このリケッチアには6種類が存在することが知られています。すなわち、カトー型、ギリアム型、カープ型、カワサキ型、クロキ型、シモコシ型の6種類です。
 このため、ツツガムシ病と診断するためには、これら6種類のリケッチアに対するIgMという免疫があるかないかを調べ、あればツツガムシ病と確定診断ができます。
 興味深いことに、カトー型のリケッチアはアカツツガムシに存在し、ギリアム型またはカープ型のリケッチアはフトゲツツガムシに含有され、カワサキ型またはクロキ型のリケッチアはタテツツガムシが保有していることが明らかになっております。
 このため、IgMという免疫で原因リケッチアを特定できれば、0.2mm程度の小さいツツガムシを顕微鏡で見なくても、刺したツツガムシを知ることが可能になります。
 2009年に、私は30人の患者さんをツツガムシ病と診断いたしました。全員の患者さんが当科に入院し、全員軽快いたしました。このうち、5月に受診した患者さんは、免疫検査によってカープ型リケッチアを保有していることがわかりましたので、フトゲツツガムシに刺されて発症したことが明らかになりました。10月1日から11月30日までの2か月間に29人の患者さんが受診されましたが、このうち、3人がクロキ型リケッチアで、26人がカワサキ型リケッチアを保有していましたので、29人全てがタテツツガムシに刺されて発症したことが判明しました。
 このことから、福島県の県南地方のツツガムシ病は、秋に発症することが多く、しかも原因ツツガムシはカワサキ型リケッチアを保有するタテツツガムシが圧倒的に多いことが明らかになりました。


 ツツガムシは、畑、山、草むらなどに生息しています。秋に孵化したツツガムシの幼虫は親虫になるために、生涯に1度だけ哺乳動物の血液を吸うことが必要なため、野ネズミやヒトがツツガムシに刺されます。ツツガムシに刺されますと、年配の人も、子供さんも年齢・性別に関係なく発症いたします。再感染することもあると言われています。ところで、リケッチアを保有しているツツガムシは0.2~0.5%程度ですから、ツツガムシに刺されても発症することは稀で、発症すれば運が悪いということになります。

 最後に、ツツガムシ病の予防についてお話いたします。畑、山、草むらに座ったり、寝転んだりしない。長袖、長ズボン、手袋、長靴を履いて、肌の露出を減らします。家に帰ったら入浴し、脱いだ衣服はすぐに洗濯しましょう。また、ツツガムシ病を疑ったら、早めに病院に行くことをお勧めいたします。
 本日は、福島県に多いツツガムシ病についてお話いたしました。