以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

緩和ケアとその周辺領域について
2018年11月放送
白河厚生総合病院
緩和ケア認定看護師 長谷川 友美

 おはようございます。白河厚生総合病院で緩和ケアチームに所属している緩和ケア認定看護師 長谷川友美と申します。今日は短い時間ですが、最近がん医療においてその重要性が高まってきている緩和ケアとその周辺領域についてみなさまに分かりやすく解説したいと思います。流れとして、緩和ケアについて、アドバンス・ケア・プランニングについて、患者力〜もしも私が進行がんになったら〜について、の3部構成でお話ししたいと思います。

 はじめに、緩和ケアについてお話しします。簡単に申し上げれば、ケアとは『心のこもった援助』のことであり、緩和ケアは『人生を大きく左右する病にかかった患者とその家族の困りごとを、的確に評価し対応することで様々な苦痛を予防・和らげること』ということになります。苦痛の内容は様々で、痛み・不安・不眠・しびれ・呼吸困難・整容・不妊などがあり、診断時から終末期まで切れ目なく緩和ケアを提供することが推奨されています。こうした症状緩和・予防の観点だけでなく、最近では患者・家族の意思決定を支える役割りも重要になってきています。そこで注目されるのが主治医力です。当院の総合診療科 東医師によれば、主治医力を持った医師とは、『病気とではなく、患者と向き合い、寄り添おうとする、患者の人生に思いを馳せようとする、患者の人生のナビゲーターであろうとする、ひたむきで誠実な態度を持つ医師』とされています。先に述べた緩和ケアで求められる、症状緩和・予防と意思決定を支える役割の中で、特に意思決定を支える役割において主治医力は重要になってきます。治すことの出来ない転移や再発がんの場合は、その限られた時間をいかに過ごすかが重要になってきます。そのためにも、患者と寄り添うことの出来る医師・医療スタッフが重要なのです。ここでいう『寄り添い』は物理的にそばにいることではなく、『いつも気にかけているよ、こころはそばにいるよ』という意味です。そんな気持ちが伝わると患者さんやご家族のみなさんはどれだけ心強いことでしょう。

 次に、アドバンス・ケア・プラニンにングについてお話しします。英語の頭文字をとってACPと訳します。アドバンスは『前もって』、ケアは先ほどの『心のこもった援助』、プランニングとは『計画する』という意味であり、ACPの意味は『自分の命がもしもそれほど残されていないとすれば、どんなケアを受けたいかを、前もって本人と関係者で話し合っておくこと』ということになります。アドバンス・ケア・プラニンにングは限られた寿命、例えば1年以内程度、と予想される患者に対し、残された時間をどのように過ごしたいか、そしてどのような最期を迎えたいかを繰り返し話し合うことです。大切なのは、患者さん本人と医師だけで決めるのではなく、ご家族・多職種も含めた複数で、また1回で決めてしまうのではなく、何度でも話し合いを繰り返すことです。つまりは、『1人で決めない、1回で決めない』ということなのです。

 私達医療者は日進月歩のがん医療について常に勉強し経験を積み重ねていく必要がありますが、一方でみなさまにもお願いしたいことがあります。それは『患者力を身につける』ということです。さまざまな情報があふれ、医療者との関係性から、『がん難民』と呼ばれる人たちが増えてきています。みなさまには、1.治療のための治療にならないように、がんへの向き合い方は、自分の人生への向き合い方の中で決まるということ、2.緩和ケアを正しく理解し、積極的に活用すること、3.人生を振り返り、周囲のためだけでなく自分のために、もう一度前を向く勇気を持つこと、を心がけてほしいと思います。

 最後に、もしも私が根治不能の進行がんになったら、についてお話ししたいと思います。私は看護師であり、緩和ケアに専門性を持つ者として、常に患者さんを軸に考えています。その私が、いざ進行がん患者になったらどのように生きるのか、非常に重要なテーマです。最初はショックで落ち込むと思いますが、自分らしく生きるために、これまで以上に人生の意味を考え、感謝し、より前向きに生きようとするだろうと思います。そして、私のこれまでの人生を一緒に振り返り、これからの限られた人生を一緒に考え、そして一緒に希望を見出し支えてくれる、そんな医療スタッフに囲まれて医療を受けたいと思います。

 本日はお付き合いいただきどうもありがとうございました。
皆様、よい1日をお過ごしください。