以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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Dr.メッセージ

日本人は糖尿病になりやすい?
2016年11月
福島県農協会館診療所(所長)
重富 秀一

 血糖値とは、血液に溶けているブドウ糖の濃度のことです。空腹時(前回の食事から10〜14時間経過後)の血糖値は70〜100mg/dlです。食事をすると血糖値は一過性に上昇しますが、いくらたくさん食べても、正常な人の場合、2時間も経てば140mg/dl以下になります。ご存知のように、血糖が上昇すると膵臓から直ちにインスリンが出ます。インスリンは血中のブドウ糖を細胞の中に移動させる働きがあるので、血糖はすみやかに低下します。ところで、私たちが必要とするエネルギーは(個人差もありますが)2,000kcal前後です。もし、過食を続けると、余分なエネルギーは最終的に中性脂肪になって脂肪細胞などに蓄えられるので肥満になります。肥満になる(内臓脂肪が増える)と内臓の脂肪細胞からさまざまな悪い物質(インスリンの働きを弱くしたり、動脈硬化を促進したり、血液が固まりやすくなったりする)が分泌されるようになるといわれています。食べ過ぎると、体内に入るブドウ糖の量が増えるので血糖を正常に保つために膵臓からのインスリン分泌は増えます。膵臓からのインスリンの分泌が十分でその作用が正常であれば、高血糖にはなりません。しかし、膵臓が疲れて十分量のインスリンを出せなくなったり、内臓脂肪増加の悪影響でインスリンの働きが鈍くなったりすると血糖値が上昇するようになります。慢性的に血糖が高い状態を糖尿病といいます。正常と糖尿病の間に明確な境界線はないのですが、空腹時126 mg/dl、食後またはブドウ糖負荷2時間値200mg/dl、目安としてHbA1c 6.5%)を超えると糖尿病と診断されます(正常と糖尿病の中間のグレーゾーンもあります)。日本人の糖尿病の90%は2型糖尿病といわれるものです。2型糖尿病には、肥満はさほどではないがインスリン分泌が低下しているタイプと、明らかな肥満を呈しインスリンが正常または過剰に分泌されているのにインスリンの作用が低下しているタイプとがあると言われていますが、どちらにしても血中のブドウ糖を処理する能力が低下していることにかわりはありません。日本人は2型糖尿病になりやすい体質を持っています。縄文の昔から、低脂肪で低カロリーの食事を摂取し、飢餓に耐えて生き残ってきた日本人にはそのような体質が必要だったのかも知れません。ただし、糖尿病になりやすい体質を持っていたとしても、その体質に見合った食事と適度な運動に心がけることで、糖尿病になるのを防ぐことができる人はたくさんいます。去年まで血糖は正常で、今年の健診ではじめて血糖値が高いと言われた人は、「栄養のバランスは大丈夫か」、「食事の量は増えていないか」、「運動量は減っていないか」など生活習慣を見直してください。改善すべき点があれば実行しましょう。糖尿病と診断された場合は、血糖値をなるべく正常に近い状態に保つような治療を行なえば良いのですが、血糖が良くなると薬の効きも良くなるので、薬を使い始めてからは低血糖症状に留意してください。最近、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」が発表されました(図)。一般的に、高齢になると食事に対する欲求が少なくなりますので、それまでの治療を続けていると血糖値が下がりすぎる場合があります。低血糖発作を繰り返す人は認知症になりやすいという報告もあります。また、たんぱく質やビタミン類の摂取不足により貧血や低栄養状態に陥る場合も少なくありません。血糖のコントロールは重要ですが、高齢になればなるほどいろいろな病気を併発していることも多いので、一人ひとりの状態に応じた血糖の管理が必要になります。

(図)