以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

深部静脈血栓症ついて
2003年9月12日放送
白河厚生総合病院
舟木 祥子

 今日は、深部静脈血栓症についてお話したいと思います。深部静脈血栓症という言葉をあまりきいたことがないかもしれませんが、エコノミークラス症候群という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか?深部というのは深い場所のことを指します。
 長時間の飛行機旅行後に到着した空港で、突然呼吸困難や失神をきたし、肺血栓塞栓症で死亡したという症例が報告されています。肺血栓塞栓症の原因は深部静脈血栓症であり、そのほとんどが下肢、つまり足の静脈の血栓といわれています。飛行機の中では長時間にわたり一定の姿勢を強いられることが多いので、足の血液の流れが悪くなります。流れが悪くなると血管の中で血液の塊ができやすくなります。この塊が血管からはがれて血流にのって心臓に戻る大きな太い血管をとおり心臓に行きます。そこから肺に連なる血管に運ばれるとその場で肺の血管がつまり呼吸困難や胸痛、冷汗がでたりします。それが肺塞栓症です。小さな塊で細い血管につまった場合は症状も軽く済みますが、大きな血管では死亡する場合が少なくありません。飛行機のエコノミークラスの座席に座っていた人に多く症状がでたのでエコノミークラス症候群と名づけられました。第一線で活躍中の有名サッカー選手がこの病気になり、ワールドカップに出場できなくなったことでマスコミにとりあげられ、肺血栓に関する社会的関心はますます高まってきています。しかし、飛行機に乗った時だけにおこるのではありません。普段の生活の場でもおきる可能性は充分にあります。
 では、どんなときにどんな人がおこりやすいかといいますと、高齢者の方や長い間ねたきり状態の人、手術を受けた人、特に足の手術や骨盤内の手術を受けた人などは他の部位の手術を受けた人よりも起こる可能性が大きくなります。また、妊娠中の人、肥満の人、経口避妊薬を飲んでいる人、心疾患や脳卒中になったことがある人、タバコを吸っている人などはリスクが高くなりますので他の人よりは起こりやすいと言えます。なぜ手術をすると起きやすいかといいますと、まず同じ体位で長時間いるということがあげられます。と同時に、人体の生理的な働きとして出血したときは、血液を固まりやすくして止血しようとします。ですからリスクの高い人が手術を受けるとすればより起こる可能性が大きいことになります。
 私は現在手術室に勤務していますが、手術後の肺血栓塞栓症を予防するために手術室に入る前より圧迫ストッキングを着用してもらっています。手術中は圧迫ポンプを装着し、一定の間隔で足を締めることで深部静脈の流れがおそくならないようにしつつ、血栓形成を予防し、ひいては術後の肺血栓塞栓症の予防につとめています。肺血栓症は体を動かし始めたときに血液の塊がはがれて起こります。ですから手術後の生活が大きく影響しますので、翌日からでも体を動かすように心がけることが大切です。足首をまわすだけでも違いますので、安静にしすぎるのは決していいことではありません。
 何度も同じこと言いますが、肺血栓塞栓症は突然起こります。そして重篤になるケースが多く、死亡率も30%と高くなります。手術や飛行機に乗ったときだけに起こるものではなく、いつでも起こりうる状況にあると思わなくてはなりません。特に肥満で高脂血症の方、心臓疾患のある方、妊婦さんは特に注意してほしいと思います。最近では、大阪のタクシー運転手が長時間の勤務後に肺塞栓症で死亡したことが大きく取り上げられました。そして裁判で労災が認められました。先程も言いましたが、肺血栓の原因は、深部静脈の血液の流れが悪くなって起こりますので、流れが悪くならないようにすればある程度予防することはできます。
 立ち仕事の多い人や、妊婦さんなどには弾性ストッキングや弾性ハイソックスを着用するだけでも深部静脈の血流が増しますので、効果的といえます。また、怪我などでしばらくの間寝ていなければならない状況になった時も弾性ハイソックスは効果的であるといえます。それと同時に水分を多めにとるように心がけてほしいと思います。ただし、水分制限のある日とは主治医に相談してからにしてください。肥満で高脂血症の方は何に対してもリスクが大きいので、食生活に注意しながらやせる努力をしたほうがいいでしょう。
 ちょっと難しい話になってしまいましたが、深部静脈血栓症という言葉だけでも耳に残していただけたら幸いに思います。