以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
JA福島厚生連からの最新の情報は、TOPページからご覧ください。



農家の皆さんへ

痴呆と物忘れについて
2004年07月23日放送
高田厚生病院
精神科 医師 和田 明

 おはようございます。今日は痴呆、「物忘れ」についておおまかにお話しようと思います。はじめに今日の話で強調したいことを話しますが、2点あります。一つ目は「年をとったからぼけるのはあたりまえだ」と思わないでいただきたいということ、そしてもう一つは「もしも痴呆かな・・・と周りの人が思ったら、早めに専門の医療機関にかかっていただきたい」という点です。

 まずは痴呆という言葉の説明をします。痴呆の定義はいろいろありますが、「一旦は正常に発達した知能が、その後に起こった慢性の脳の障害のために異常に低下してしまった状態」とすることが一般的です。ちょっと難しい言葉が多いと思いますので簡単にすると、痴呆とは「それまでに健康であった人が、脳の病気で一部壊れてしまった結果、頭がはっきりとしているにもかかわらずひどい物忘れが出て、そのうえ、考え方が前より単純になったり、判断を間違えることが多くなったり、言葉をうまく使えなくなったり、動作の段取りがあやふやになったり、人柄が変わったりして結局一人で生活をしていくことが難しくなった状態」と言うことができると思います。

 よく「私も物忘れがあるから痴呆かしら・・」と話される人がいます。たしかに誰でも物忘れ、「うっかりしていた」ということはあります。では、痴呆といわゆる健康なお年寄りの「物忘れ」はどこが違うのでしょうか。この2つの違いは多くありますが、健康なお年寄りの「物忘れ」では、自分が物忘れをしているという自覚があり、日時や場所がわからなくなることはなく、学習する力、新しいことを始めたり、覚えたりするということが出来、日常生活に明らかな支障がなく、物忘れのひどさがあまり進行しない、という特徴があります。逆に痴呆では、自分が物忘れをしているという自覚がなく、日時や場所がわからなくなり、学習する力、新しいことを始めたり、覚えたりすることが出来なくなり、日常生活での支障があり、物忘れが早く進行する、という特徴があります。以前の東京都福祉局の調査によると、家族の方が痴呆の早期症状として最初に気付いた変化としては、置忘れ、しまい忘れが目立つ、同じ事を何回も言ったり聞いたりする、物の名前が出てこなくなる、慣れている道で迷った、時間の感覚がなくなった、夜中に急におきだして騒いだ、些細なことで怒りっぽくなったり、人を疑い深くなった、だらしなくなった、日課をしなくなった、薬の管理が出来なくなった、財布を盗まれた、などがあったとのことです。高齢の方でこのような症状がある場合は、早めに精神科を受診していただいたほうがよいかもしれません。

 さて、痴呆には様々な原因があります。主な原因はアルツハイマー病と脳血管性痴呆です。アルツハイマー病は脳の神経細胞が徐々に死んでいく変性疾患といわれるものの一つで、その症状の進行を遅らせることが出来る治療薬が日本では1種類だけ発売されています。脳血管性痴呆はその多くは多発性の脳梗塞によることが多く、以前は動脈硬化性痴呆という言葉がよく使われていました。そのほかにも変性疾患のPick病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、脳の感染症、頭への外傷が元で起こる慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、アルコール性痴呆、ビタミン不足によるペラグラなどが痴呆の原因となります。ひとえに痴呆といっても実に多くの原因があるんだな・・・と思われるかもしれません。どの疾患でも漫然と放置していると悪化の一途をたどり、患者さん本人の生活の質が落ちるばかりではなく、介護者の負担が大きくなります。また、慢性硬膜下血腫や脳腫瘍による痴呆では全例ではありませんが、手術をすることで痴呆が治ることもあります。これらのことからも、「年をとったからぼけるのはあたりまえだ」と放置しないほうがよいのではないかと思われます。

 一方、痴呆と似ているが、実は痴呆ではないという事もあります。はっきりと区別しないといけないものは意識障害、特にせん妄状態とうつ病性の仮性痴呆があります。この2つは時として見分けがつきにくいことがあり、やはり専門機関を受診したほうがいいと思われます。

 では、病院に痴呆を訴えていったり、相談に行くとどんなことをするかということですが、脳そのものに悪いものがないかをCTという頭の輪切りの写真を使って調べたり、脳波という頭に心電図をとるときのような線を付けて、脳の働きを調べたりします。また、今までの経過を聞かせていただき、生活している環境、出来事、薬、タバコや酒などの習慣、問題の程度を調べていきます。合併症がある場合や、体の病気が痴呆のような症状の原因となることもあるために、血液検査を行うこともあります。
 その上で治療を開始しますが、治療法にも様々な方法があります。大きくは薬を使う方法、手術をする方法、この場合は当然脳神経外科の先生にお願いすることになります。そのほかにも家族や介護者に対する適切な接し方を説明させていただく場合もあります。我々よりも介護する方、特に家族の力は大きく、薬の力よりも介護する方の適切な接し方で、痴呆の患者さんにおこる問題が少なくなるということがよくあります。ですから、何よりも家族の方にも是非、痴呆の方への接し方を勉強していただきたいと思います。勉強していただく一例としては、家族の方には、患者さんに対して多くを期待しすぎないで欲しいということです。患者さんの失敗に対していつも叱る家族の方がいらっしゃいますが、そうすると患者さんは余計おどおどして混乱してしまいます。そのような家族の方は、まだ患者さんに期待をして過ちを直してもらいたいと思われているのだと想像しますが、患者さんは記憶の障害があり、これは直せません。痴呆という病気のために出来ることと出来ないことがあることを理解してあげることが必要です。ですから、いろいろと期待しすぎないようにして、出来ないことを手伝ってあげれば患者さんも落ち着いた穏やかな生活が出来るわけです。

 昨今、介護疲れでの無理心中や殺人事件という悲しいニュースが伝えられます。これからの超高齢化時代を迎え、家族の誰かが痴呆の患者さんを介護をするといった一極集中型の介護では成り立たない場面が増えてきていると実感します。高齢者になった方自身がその両親を介護しなければいけない場面、家族の核家族化、共働き夫婦の増加による介護者の不在なども、家族だけでの介護の限界を示していると思われます。これからは、痴呆の専門機関での早期発見、早期介入とそれをきっかけとした介護グループの構築が必要になっていくと思われます。そのことが実現すれば、介護疲れでの無理心中という悲惨な状況の多くは回避できるのではないかと考えています。介護者の方へ、一人で悩まないでご相談下さい。家族の中に痴呆かな、という方がいる場合、早めに専門機関にご相談下さい。痴呆ではない場合もありますし、治ったり、進行を遅らせることができる場合もあります。また、問題となる行動を最小限に出来る場合もあります。
 今日は痴呆、物忘れについてご説明しました。以上です。