以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

「パニック障害について」
2005年11月18日放送
双葉厚生病院
精神神経科 神山 峰由

 本日は、パニック障害といわれる病気についてお話します。
  1992年アメリカのWHO(世界保健機関)の国際分類に登録された病名で、ここ10年ぐらいの新しい病気です。それ以前には、この病気がなかったわけではありません。最新の治療が確立されるようになって、新しい概念としてパニック障害という病名が示されるようになりました。以前は心臓神経症と呼ばれるものに含まれていましたが、歴史的にどれくらい古い概念の中に示されていたかというと今から1500年から1800年前にもさかのぼります。当時の中国に、金匱要略(きんきようりゃく)という医学書があります。その書物に、奔豚気病(ほんとんきびょう)という病気についての記載があります。奔豚は豚が下腹部から上に向かって駆け走るという意味で、その書物にはこの病気について、あたかも下腹部で気が突きあがるような痛みを感じ、続いてその気が下腹部から心臓部ないし喉元に上がってくるのを感じ、その発作は死んでしまうのではないかと思うほどの苦しみで、しだいに突き上げてくる気がおさまれば症状も徐々におさまるという記述があります。疾患概念の変遷はありますが、おそらくこのような古い書物に記載があるのは、症状自体はよく見かけるものであったのでしょう。
 このようにごくありふれた病気でありながら、最近治療が急速に進歩したパニック障害は、パニック発作という主症状が前触れもなく出現し、繰り返し起きます。パニック発作とは、体の症状と精神的な症状を伴い、強い恐怖または不快を感じ、発作のときは普段のときと違うことがわかります。発作の不安は、間欠的で、ほとんど突発的であります。パニック発作は、突然始まり、通常は10分以内にピークに達し、危険や破滅が迫った感じ、逃げ出したい感じを伴います。身体症状も著明で、心臓循環器系症状の動悸・頻脈、呼吸器系症状の呼吸困難・胸痛・息切れ・窒息感、神経症状のめまい・ふるえ・しびれ等があります。他の随伴症状として気が遠くなる感じ、非現実感または離人感、コントロールを失う恐怖、死んでしまうのではないかという恐怖があります。
 パニック障害の特徴をまとめますと次のようになります。第一にパニック発作の繰り返し、第二にまた起きるのではないかと思う予期不安、第三にパニック発作がおきた場所から逃げられないのではないか、恥をかくのではないかという場所や状況にいることへの不安である広場恐怖、第四に患者さんが自分の身体感覚に敏感になり、身体感覚を誘発する活動を避ける心気症、第五に二次性の抑うつ状態、が挙げられます。これらの特徴での具体的なお話を紹介しますと、ある男性の方が、朝の通勤の運転中に急に気分が悪くなり、胸がドキドキして、呼吸が出来ないほど苦しく、気が遠くなりました。ご本人は心臓の病気ではないかと思い、路上のコンビニで救急車を呼んでもらい、病院にいったのですが発作はもうおさまっていて、内科医の診察と心電図を受けましたが異常がないということで疲れがたまっているのでしょうと経過観察になりました。その後、その発作が繰り返し起こり、病院を変えてあらゆる精密検査を受けましたが、異常所見が見つからず、不安な日々が続きました。運転をするのが怖くなり、仕事も休みがちになってしまうという状態になりました。
 はじめにお話しましたようにパニック障害は、古い概念から変遷を経て最近10数年に新しい概念として認められるようになってきたのですから、効果的な治療が進んできたこともその背景にあるからだと思います。これからは、その治療についてお話します。パニック障害の一次症状がパニック発作でありますので、この発作を止める薬物療法が必要になります。精神機能に作用する薬は向精神薬といわれておりますが、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗躁薬、などがあります。パニック障害では、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬が使用されます。特に、最近は抗うつ薬の中でもセロトニン再取り込み阻害薬のSSRIが効果的といわれています。しかし、治療経過に応じて、薬を少しずつ換えるときもありますので、症状やお薬が固定するまでには、精神科や心療内科などの専門医に調整していただくことをお勧めいたします。薬物療法のほかには、心理療法があります。認知・行動療法、自律訓練法、暴露療法等ありますが、心理療法には、専門の訓練を受けた心理療法士が必要ですので、パニック障害の診断を受けてから専門医に相談してみましょう。以上、パニック障害についてお話してみました。