以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

昨今の救急医療に関して
2007年8月24日放送
双葉厚生病院
外科医師 石井 証

 皆様お早うございます。双葉厚生病院外科の石井と申します。本日は夜間や休日のいわゆる救急医療に関する現状についてお話したいと思います。厳しい現状を知っていただき、皆様にもご理解とご協力をいただきたいと思います。

 病気はいつ何時発生するかは誰にも予想できません。例えば心筋梗塞、脳出血などの重症の疾患は、できるだけ迅速に対応出来なければ死に直結するような病気です。そのため、救急医療を担当する病院は1次、2次、3次の区別が分けられ、それぞれに対応できるような体制が、少なくとも制度上は整っています。しかし、日本国内のいたるところでこの体制が維持できなくなりつつあります。この数年、皆様の近くの病院で、これまであった科が無くなったり、また担当する医師の数が減ったりしていることにお気づきになっていると思います。これは平成16年度から導入された新研修医制度の影響が大きいと考えます。大学を卒業した医学生がよりよい環境を求めて大学病院に残らなくなり、結果、人手不足となった大学側が派遣先の病院から医師を引き上げているわけです。その他、科による違いはありますが、開業医志向の医師数が増え、勤務医の数が減少していることもこの現象に輪をかけている状態です。そのため、我々地域医療を担当する病院は常勤でまかなえない診療科を大学から日代わりで応援をいただいて維持したり、また手術を行う場合も応援医師に来て貰い、自ら麻酔を行う場合も数多くあります。

 さて皆様は、例えば頭が痛い時、あるいは胸が痛い時、いつ病院に掛かろうと思われますか。何かの症状がでた時すぐ対処しようと思われますか?私は現在の職場に勤務する前にも、大学病院の救急センター等にも勤務した経験があり、いろいろな症状の患者様に接してきました。そして、救急医療の現場で多くの患者様がいかに病気を放置しておられるかに愕然とすることがあります。重症の患者様の場合、突然症状が出現するのではなく多くは何らかの予兆があり、早めに対処しておけば重症化せずに済む場合も多数見られます。さらに数多く見られるのは軽症の患者様で、数日から1週間程度前から症状があったにも関わらず夜間に受診する方です。例を挙げれば、市販の薬を内服して様子をみていた、そのうちよくなると思って放置していた、日中連れてくる家族がいなかったので来られなかった、極端な場合では、症状がよくなって病院に来られるようになったので受診しましたというケースまであります。軽症の患者様でも冬場などにその数が膨大となれば、担当する医師は日中の仕事を終えた後、深夜、早朝を問わず診療を行います。しかも翌日休むことの可能な病院はほとんど無いと言えます。疲労した状態で翌日の診療を開始しなければならないのです。勤務医の数が徐々に減少している、また小児科など救急患者の比率が高い科の医師が減少傾向にあるのはこのようなことが原因になっているのです。

 次に1人の医師が診られる病気の種類には限界があるということです。先ほども述べましたように、多くの病院では非常勤の応援医師で診療が維持されています。これはあくまで日中の話です。それでは夜間、当直医1人で診療している病院で日中と同じレベルでの診療が可能でしょうか?自分の専門分野以外の患者を診断治療することは医師にとっても非常にストレスのかかることです。大学で6年間も勉強したのだからどんな病気でも診られるのではないかと思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、患者を診断して治療するという修練は、医師免許を取得してから始めるものであって、各科の基本をきちんとマスターするだけでも数年を要するとお考え下さい。医師1人1人の努力により休日夜間の診療は成立しているのであって、決して日中と同様の条件ではないことをご理解ください。

 またもっと切実な問題があります。それは救急車の要請の問題です。救急車の要請があった場合、救急の本部から対応可能な病院に問い合わせたうえで搬送を開始することになります。つまり対応可能な病院がなければ長距離を移動しなければいけないわけです。当院のある双葉郡を例にとってお話します。平成18年度の消防年報によれば全出動回数2504回中、郡内は1391回ですが、本来管轄外の地域まで移送した回数も1113回と極めて多い状況です。これはいわき市、南相馬市、あるいは福島、郡山などの中通りの地域、場合によっては県内で受け入れる病院がなく、仙台、茨城まで移動が必要であったケースもあったようです。各消防署に配備されている救急車はそれぞれ1~2台程度です。もし救急車が患者様を乗せて遠くの病院まで移動している間に、別の重症患者様がでた場合、対応することが出来なくなる場合があります。また医師と同様、救急救命士の方も出動が度重なれば、肉体的、精神的疲労は増加していきます。
 このように現在、救急医療を取り巻く環境は医療を受ける側、提供する側にとって決してよいものではありません。それではどのようにすればよりよい環境にできるのでしょうか?極めて単純な話ですが、何らかの症状が出た場合、直ぐにお近くの医療機関にご相談するようにする、このことだけでも問題となっていることの多くが改善されるのではないでしょうか?始めから多数の科のある総合病院である必要はありません。日中でしたらご近所の開業の先生で結構です。その中から緊急性のある病気を、迅速に対応可能な病院に紹介していただければよいのです。日中受診することで、近くの地域で対応可能な病院の数も多く、また、連絡、移送もスムーズに運びます。アメリカでは、home doctorと言われる制度があります。これはどのような疾患でも、まず長年掛かっている医師が初期の対応をし、重症疾患であればすぐ対応可能な病院に紹介するというシステムです。先ほど申し上げた新研修医制度は、プライマリ・ケアの基本的な診療能力を修得するという目的があげられていますが、現在のような「かかりつけ」という漠然とした概念ではなくこのhome doctorのようなシステムを定着させることが想定されていると思われます。合理的なシステムですがそれには患者様が病院をうまく利用していく工夫も必要であると考えます。まず病気を放置しないで早めに日中病院を受診する、このことを守るだけでも多くの効果が得られるのではないでしょうか。