以下の記事は、福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)「健康アドバイス」として、過去に掲載された情報のバックナンバーです。
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農家の皆さんへ

「急性期看護と老健施設での看護の違い」
2016年5月放送
塙厚生病院併設介護老人介護施設久慈の郷 看護主任
 藤田 節子

 みなさん、おはようございます。私は、塙町にある介護老人保険施設久慈の郷で看護師をしております、藤田節子と申します。今回は、病院での急性期看護と老健施設での看護の違いについてお話したいと思います。
 初めに、病院での看護師の役割をお話したいと思います。一言で言えば病院は治療の場です。安心して治療できるために、専門的な資格を基に医療行為と看護ケアをすることです。病気の治療が優先され、検査や点滴を行ったり体に管を入れるなど治療をすることがあります。それは場合によって生活を制限され精神的な負担となることがあり、看護師は精神面での援助も大きく関わっていきます。

 一方、老健施設は自宅復帰に向けたリハビリを行う利用者や、別の施設への入所のため待機している方が入所されています。さまざまな病気や慢性的な症状を抱えて生活している高齢者の方が生活しています。数多くの病気や症状に対応するため、病院である程度経験を積んだ看護師が12名で関わっています。看護師の役割は、利用者の生活場面を通して健康管理をします。その他に感染の予防や安全に生活しているのかの確認、病院や他の施設との連携などがあります。つまり、老健施設は生活の場なのです。看護師は、その人を理解し生活を支える介護士と協同し、看護の視点を持ち入所者の命と生活を守っています。また、医師が常勤しており、何かあれば報告し指示に対し処置を行います。ただし原則的に病気の治療を目的とするところではないので、国の指定したいくつかの病気のみ施設で治療しております。そのため、あくまで一般的な内服薬の与薬や点滴を行い、生活に必要な医療処置や観察を行うだけで、病院のような高度な治療を行っておりません。それでも、家族が希望すれば病院に入院し専門的な治療をすることは可能ですが、病院は医療保険で運用しており、介護保険との併用はできない仕組みですので施設は退所することになります。

 次に、病院での急性期看護と老健施設での看護の違いについてお話したいと思います。
老健入所の中には、日常生活に必要な医療処置をすることで前と同じ生活を続けられる方がいますが、看護師の役目は加齢に伴い体力の低下のためご飯が食べられない、熱を出した場合などに点滴を行ったり、少しでもご飯や水分がとれるような介助を行っています。そして、いつもの体調と違う場合は御家族に連絡し、今の状態を分かりやすく伝え、「安心して家族を預けられている」と思っていただけるよう心掛けています。

 次に、老健施設と病院との一番の違いは、病院は元気に退院されることを目指しますが、老健施設では看取りが日常にあることです。加齢の経過で人は誰もが老いその延長上に死があり、全ての人が通る自然な過程ですので、過剰な医療や延命処置による苦痛を与えることなく、自然なかたちで最後を迎えられるようにしています。加齢や慢性疾患の経過による身体的精神的機能の低下などから老衰と思われる場合、看取り期が近いことを医師と共に判断し、家族への説明を行うのも看護師の役割です。充分な説明を行い施設での看取りの希望がある場合は家族からの同意を頂き、個人の意思の尊重と家族の希望を取り入れ最後を迎えるため関係者全体で関わるよう調整します。そうして、看護師は苦痛の軽減をするための処置と体調の管理を行い、症状に応じて段階を追って理解できるように説明し、家族の方が今後の希望や最後を迎えるための心の準備と、残された時間を家族ともにいられる時間を作るように調整しています。可能であれば好きなものを少量でも食べて頂き、介護士と共に今までのケアを苦痛のない程度に行い、一日一日を大切に過ごすことに努めています。
 最後に病院と違う最大の特徴は、看護師個人が利用者と長期間の関わりができることです。病院では良くなれば退院になる為短期間の関わりになります。病院での勤務の時に、時間があればこれも出来るようになるのでは、もう少し時間を掛ければ自宅でも安心して過ごすことができるのでは、と振り返ることがありましたが介護施設では生活の場であるため、長い時間の関わりです。生活を支えるため、どのように看護・介護をすれば快適に生活できるのか、工夫と実践をすることが出来ます。その他に、日常生活を続けるための継続的な健康管理をすることで日々の変化に気づくこともできます。それは長い時間の関わりだからこそ少しの変化に気づくことができるのだと思います。自分から体の不調を言えない利用者がいらっしゃるので、普段の生活のなかで調子が悪そうだ、ご飯が食べる量が少ないなどちょっとした変化を見逃さないよう配慮しています。利用者は高齢者ばかりですので、状態が変化しやすく早めの対応が必要なため、日々の観察が重要となっています。
 まとめますと、老健施設では病院のように病気に対する看護と医療処置は多くはありませんが、その分、利用者の方々と生活の援助を通して関わる時間がたくさんあります。その時間を通して、利用者とその家族との信頼関係を築くことができ安心して入所していただけることに繋がると感じています。これからも、それぞれの今まで生きてきた過程・習慣などを尊重し、介護の視点を持った看護師として接していきたいと思います。