アルコールと健康
2019年1月
福島県農協会館診療所
所長 重富 秀一
 年末年始の行事も一段落したことと思います。お酒の好きな方もそうでない方も、大晦日からお正月にかけてはお酒を飲む機会が多かったのではないでしょうか。酒はどんな薬よりも優れていると言う意味の「酒は百薬の長」ということわざは中国の歴史書『漢書』の由来であって、「酒は多くの薬の中で最もすぐれており、めでたい会合で嗜むよきものである。」という意味だそうです。英国の研究者(マーモット博士ら)は1981年に「死亡率を比較すると、酒を全く飲まない人や飲み過ぎる人より、適度に飲む人の方が低い。」という結果(U字型死亡曲線)を発表しました。日本人の研究でも、男女とも1日平均23g未満(日本酒1合未満)で総死亡率のリスクが最もリスクが低くなっています。また、血管疾患の発症率も非飲酒者に比べて少量飲酒者のリスクがむしろ低いことが明らかとなりました(図1)。これらの結果を踏まえ、健康日本21では一日に摂取する適度なお酒の量として、純アルコール換算で約20グラムを推奨しています。ところが、1987年に国際がん研究機関(WHOの下部機関)はアルコール摂取により口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がんの発生率が増加すると報告し、アルコールの発がん性リスクを「喫煙」「ヒ素」などと同じ最も高いグループ1に分類しました。2007年にはアルコールが原因で発生するがんとして結腸、直腸がんと女性の乳がんが追加されました。以来、「酒は万病の元」として禁酒運動が広がりを見せています。「酒は百薬の長」、「酒は万病の元」いったいどちらが本当なのでしょうか?お酒(=アルコール)の功罪についてはいろいろな説がありますが、良し悪しを結論づける決定的な事実はまだ明らかにはなっていません。アルコールと健康、大まかには(図2)のような関係になっていますので、健康診断で異常がない人でも、節度を保った飲酒に心がけましょう(表1)。さて、お酒の主な成分であるアルコールは、胃で約20%、残りの大部分は小腸で吸収されて血液に溶けて体内を循環します。体内に入ったアルコールのうち2~10%は、尿や汗、呼気となって、体の外に排出され、残りは肝臓で分解されます。アルコールが肝臓に入ると、まずアルコール脱水水素酵素(ADH)という酵素の働きでアセトアルデヒドという物質に変換されます。アセトアルデヒドは毒性が強く、悪酔いや二日酔いの原因になります。お酒を飲んだあと顔が赤くなったり、頭が痛くなったり、気分が悪くなったりするのは体内にアセトアルデヒドが蓄積するからです。ADHにはいくつかの種類があって、そのうちADH1Bという酵素には活性が高いものと低いものがあることが知られており、日本人の約4.9%はADH1Bの活性が低いそうです。低活性型の人は大酒家になりやすいそうで、アルコール依存症患者の約3割はこの活性が低いことが知られています。ADHによって産生されたアセトアルデヒドは肝細胞のミトコンドリアの中にあるアルデヒド脱水酵素2型(ALDH2)によって無害な酢酸に変わり、さらに水と二酸化炭素に分解されます(図3)。ALDHにも複数の種類があり、中でもALDH2と呼ばれるタイプの酵素が最も重要なアセトアルデヒドの分解酵素と言われています。ALDH2欠損者は少量飲酒で顔が赤くなるフラッシング反応を起こし、少ない飲酒量で二日酔いなります。日本人ではALDH2遺伝子が完全欠損している人が約9.5%、対の遺伝子のうち片方が欠損・片方が正常(ヘテロ欠損)の人が約49.6%だそうです。白人や黒人にALDH2欠損はいません。世界的にみると日本人はお酒に弱い人種と言えます。肝臓が1時間で処理できるアルコールの量は体重60~70kgの人で5~9gといわれていますが、代謝時間は個人差が大きいので、飲み終わってから何時間すればアルコールが体から無くなるかを推定することは困難です(図4)。呼気のアルコール含量がゼロならば確実にアルコールが抜けたと言えます。呼気1リットル辺りのアルコール量が0.15mg以上あると「酒気帯び運転」として90日間の免許停止、0.25mg以上あると免許取り消しの処分を受けますので、アルコールが分解されて完全に体外に排出されるまで運転してはいけません。



図1 アルコール消費と生活習慣病等のリスク


図2 わが国における死因別、飲酒別の相対リスク


表1 アルコールの功罪


図3 体内に入ったアルコールの代謝過程
(放射線生物研究34(3)284-291,1999)


図4 血中アルコール濃度の変化
(「Alcohol Alert」 National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism)

健康アドバイス

 

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